3Dモデルの操作性の改善

細い茎が選べない問題

ある程度アプリの形が見えてきた段階で、自分でもしっかり触ってみました。さらにモデリング担当にも試してもらったところ、最初に返ってきた感想が「細い茎が全然選べない」でした。

自分としては「拡大してタップすればなんとかなるだろう」と思っていたのですが、実際に試してみるとまったく思うようにいかず…。テスターからも「これはちょっと難しいですね」と言われ、さすがにこのままではいけないと痛感しました。

そこでまず取り入れたのが、「タップ領域を広げる」施策です。見た目の形状よりも少し大きめのバウンディングボックスを持たせ、オブジェクトの細い部分でもボックス内のどこをタップしても反応するようにしました。これにより、細かい花材や枝もある程度選びやすくなりました。

さらに次の段階として採用したのが「階層選択ボタン」です。まず大きな枝を選んでから、そこからドリルダウンするように細かい部分を選べるようにする仕組みです。さらに同じ階層の隣の要素へ移動できるようにしました。タップ精度に頼らずに“段階的に辿る”という操作方法に切り替えることで、なんとか使えるレベルに近づけられたかと思っています。

複数選択や一括操作の試行錯誤

上記の問題とも関わるのですが、次に出てきたのが「複数の子ノードをまとめて動かしたい」という要望でした。作品を作っていると「まとめて動かしたい」と思う瞬間は当然出てきます。

例えば、特定のお花の中で、お花1と茎1,2だけ移動させたいといった要望があったとします。もともとの実装であれば、このとき、お花1を選んで移動させて、次に茎1を選んで移動させて、、、となりますが、狙った通りに移動は難しくそれぞれでズレてしまいますし、同じ移動をそれぞれの子ノードにして行わなければならない。

この操作性は問題でした。

そこでまずは素直に「複数同時選択」を実装。チェックボックスで複数選び、一括で移動できるようにしました。

ところが、使ってみると「どのノードが選ばれているのか分かりにくい」「直感的じゃない」という不満が出てきました。機能を足せば解決するかと思ったら、逆に混乱を招いてしまったわけです。

最終的には「モデリングの段階から親子関係を作り、意味のある塊ごとに操作できるようにする」という方向に落ち着きました。一本の枝や葉を単体で動かすのではなく、ある程度まとまったパーツ単位で動かす。これなら操作もシンプルになり、ユーザーも迷わなくなります。

そのためには、すべての花材のモデルを見直し、親子関係を調整し直すという作業が発生しましたが、これは必要な作業だったと認識しています。

回転やスケール ― 原点の罠

さらに頭を抱えたのが「回転やスケールが思った通りにいかない」という問題でした。触っていると「ここを回したいのに、なぜか変な方向に回ってしまう」という状況が発生しました。

原因は単純でした。すべてのモデルの原点が0,0,0に置かれていたため、拡大縮小や回転がシーン全体の中心を基準に動いてしまっていたのです。

そこで「選択中の部分の中心を原点として扱う」ように仕様を変更。触っている部分を基準に動かすことで、ようやく「思った通りに回る・拡大する」という自然な感覚に近づけることができました。

この原点を変更するという操作もBlender上でスクリプトを書いて処理させる必要があり、ここもまた一工夫発生しました。

UIが“プロ向けツール”になってしまった反省

操作性の難しさは、UIの設計にも直結していました。 最初はとにかく機能を詰め込んでいった結果、左右にタブ、下にパネル…と、気づけばPhotoshopやIllustratorのような“プロ向け制作ツール”っぽい画面になってしまっていたんです。

最初に外部の人に触ってもらったときに返ってきた言葉は、「これ、ちょっと玄人向けすぎない?」というもの。 自分としては「初心者でも楽しめるアプリ」を目指していたので、その感想は意外でした。でも言われてみれば、UIに「ノード」「コンポーネント」といった専門用語をそのまま使っていたり、操作の流れが複雑すぎたりと、確かに初心者には分かりにくかったと思います。

「子どもでも遊べる」操作を目指して

印象的だったのは、「子どもでも遊べるくらいじゃないと」というひと言でした。 最初は「いや、子どもだけをターゲットとしているわけじゃないのに」と思ったんですが、振り返ると自分がいけばなを始めたときも、専門用語や説明の多さに最初はついていけなかったんですよね。

だからこそ、初心者が自然に触れるようにするには、それくらい直感的で分かりやすい操作が必要だと感じました。今は「小学生でも触って形にできるか」を一つの基準にして、UIを見直すようにしています。

削除ボタンひとつの場所で印象が変わる

UI改善の中で特に分かりやすかったのが「削除ボタン」の件です。 自分の感覚では「メニューにあるから分かるだろう」と思っていたのですが、実際に使う人はそこまで丁寧に探してはくれません。

「消したいのにどこにあるか分からない」という体験は意外とストレスになります。シンプルな削除ひとつでアプリ全体の印象が変わってしまう。派手な新機能を足すよりも、こうした基本操作を分かりやすく整える方がずっと大事なんだと学びました。

終わりのない改善

こうして振り返ると、操作性に関する問題は尽きることがありません。

「細い茎をどう選ぶか」「複数をどう動かすか」「回転の基準をどこに置くか」「UIをどう分かりやすくするか」。ひとつ解決すればまた別の課題が出てきて、頭を抱える。その繰り返しです。

正直なところ、フィードバックを受けるのは簡単なことではありません。自分なりに考えて作ったものに「分かりにくい」「使いづらい」と言われれば落ち込みます。

でも、実際には自分では気づけなかった問題を、ユーザーが教えてくれているわけで、それはとても貴重なことです。耳が痛い指摘であっても、そこから学んだことを積み重ねていくしかありません。

「操作が難しくてやめた」ではなく、「触っているうちに自然と使えていた」。そう感じてもらえるように。 そのために、これからも細かい改善を続け、少しずつでも使いやすいアプリに近づけていきたいと思っています。